PROLOGUE

第2回目のゲストはアンちゃん=菅原諒彦(まさひこ)さんです。
僕が体を酷使した時に、
真っ先に足を運ぶ「駆け込み寺」。
これまで、いろんなマッサージを受けてきたけど、
「悪いところを見付けてとことん治す」という
アンちゃんの熱意にはいつもいやされます。
大島から茅ヶ崎まで遠泳を達成した後も、
「体がボッコボコでガッチガチでヤバい。終わらねえ」と笑いながら、
いつまでも向き合ってくれました。
屈強な見た目ながらも、メローで朗らか。
だけど、自分が納得する施術をとことん突き詰めようとする。
その内にある「ストロングハート」の正体を探ってみました。


● ゲスト = 菅原諒彦 さん
● 聞き手 = 鈴木一也

PART01.茅ヶ崎のゴッドハンド、笑顔を生む

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アンちゃんこと菅原諒彦(まさひこ)さんは、茅ヶ崎のゴッドハンド整体師。僕ももちろん多くの患者さんが、アンちゃんに救われています。サーフィンの世界チャンピオンや世界的に有名なカリスマサーファーも、そのウワサを聞いてやってくるほどのすご腕。いつも、顔も体も汗だくになりながら、患者さんの全身をくまなく施術してくれます。見た目はちょっと強面だけど、やさしく心地がいいんですよね。アンちゃんのメローな性格が施術にもよく表れています。

菅原

みんな、施術を始める前は苦虫をかみつぶしたような顔をしているけど、帰りは全員が笑顔。それが自分への報酬だよ。下は3歳から上は91歳まで。3歳の子は背中が曲がっちゃっていたんだけど治ったら、親御さんは泣いて喜んでくれたよ。

――

整体師になった理由を聞かせてもらいたいんですが、アンちゃんはサーフィン抜きには語れないですね。サーフィンを始めたきっかけを教えてもらえますか。

菅原

小学校までは水泳と柔道をやっていたんだけど、高校生になってレスリングを始めたんだよ。高校2年生で全国大会に出場して団体戦で3位になって、オリンピック候補になった。

――

すごいですね。

菅原

やっぱり元気がよかったんだろうね。だけど、イヤでイヤでしょうがなかった。オリンピック合宿に連れて行かれて、オリンピック選手と戦わされる。裸の男同士が抱き合ったりするのは、あまり気持ちよくないじゃん(笑)。17歳の夏に、高校をズル休みして七里ヶ浜の海へ行ったんだよ。

――

そこで人生を変える出合いをするわけですね。

菅原

髪の毛の長いかわいい女の子が、ビーチに座っているの。で、一人のサーファーが海から上がってきたら、タオルとジュース、最後にタバコに火をつけて渡したのね。それを見て、何だこいつら、となった。

――

レスリングとは真逆な世界ですね。

菅原

で、そのサーファーにお願いして、サーフボードを借りて海へ入ったんだよ。最初は、波に乗ろうと四苦八苦しては失敗。サーフボードを流してはビーチまで泳いで取りに行った。だけど、4回目にテイクオフできて、岸まで乗れちゃった。そうしたら、その人、びっくりしちゃって。「すげえな、オメエ。あんた、続けた方がいいよ」と言われてね。

――

で、どっぷりとハマって続けることになった(笑)。

菅原

高校の同級生にサーファーがいて、マント滝本といって後にサーフボードのシェイパーになるんだけど、ヤツの実家が茅ヶ崎だったから通うようになった。1年くらいでGODDESS(茅ヶ崎の老舗サーフショップ)のテストライダー(サーフボードをテストライドするサーファー。サーフボードやウエットスーツも支給される)になった。

――

やっぱり、才能があったんですね。当然、サーフィン大会にも出場していたんですよね。

菅原

最初は出ていたんだけどね。サイズが大きい波が好きだから。3本乗らなければならないルールなのに2本しか乗れなかったり、1本しか乗れなかったり。で、その1、2本で、決勝には上がれるんだけど、結局最後に負けちゃうんだよ。で、つまらなくなって。

――

アンちゃんといえばビッグウェーバーですもんね。大きな波に乗ることにこだわり続ける。ビッグウェーブの魅力はどこですか。

菅原

テイクオフからのボトムまでの距離でしょう。あとはチューブ(波がサイズアップして作り出す円筒形の空間。この内部をサーフィンして抜け出ることはサーファーにとって究極のテクニック)だよね。チューブがすべてを物語っているよ。完璧じゃないとメイクできないしさ。選波眼っていうのかな。選球眼じゃないけど。そういうのがないといけないし、潮回りもあるし、波待ちするサーファーの並びや間隔もあるし、すごく研ぎ澄まされる。だから、心との会話があるよね。いつも心と会話して波に乗っているもんね。無になれるというか。

Photo/Jully

――

1985年、茅ヶ崎に自身のサーフショップ「ハード&メロー」をオープンしましたよね。

菅原

コンテストがつまらないから、自分で自分をスポンサードして、好きなだけサーフィンをした方がいいなと思って、お店を出したのよ。

――

店名の由来は何ですか。

菅原

サーフィンってハードじゃん。その時に、気持ちをメローに持っていって、いい波に乗らないと、メイクできないような気がする。あと「ハード」と「メロー」はまったく反対な言葉じゃん。両方の要素をサーフィンって持っている。海に入っている時はすげえハードだけど、上がるとすげえメローじゃん。

――

はい、その通りです。

菅原

サーファーにしかわからない感覚だよね。海の中でもみくちゃにされて、あんな苦しい思いをしてさ。何なんだという感じだよね。だけど、海から上がると、すごくメローになれる。

――

「ハード&メロー」という言葉は、アンちゃんにぴったりな言葉な気がします。やっていることはハードだけど、中身はメロー。その相反する価値観が同居しています。

TO BE CONTINUED
2026/01/17