PROLOGUE

第1回目のゲストはタカさん=釜口貴晴さんです。
この企画を思いついた時に真っ先に思い浮かんだのがこの人。

ハワイ、マウイ島にあるモンスター級の波がくるサーフポイント「ジョーズ」に
WSFでチャレンジしたこともある元WSF日本チャンピオン。
そして、カイトボーディング、SUP、フォイルサーフィンなど、
新しいマリンスポーツをいち早く取り入れてきた、海の遊び方の
伝道師でもあります。

どんな時でも太陽のような笑顔。
パワフルでタフなボディ。
海に出ればメチャクチャかっこいいライデイングでみんなを魅了する。
僕は会うたびに野生動物の様に自由な人だなって、憧れます。

そして、どんな時も笑顔。
大島から江ノ島までSUPで一緒に横断すると、
いちばんキツい時でもやっぱり笑顔。
そんなTAKAさんの笑顔の秘密に触れたいと思います。


● ゲスト = 釜口貴晴 さん
● 聞き手 = 鈴木一也

PART04.サイズもスピードも桁違い、憧れの「ジョーズ」でモンスターに乗る。

――

「ジョーズ」の話、詳しく聞きたいです。誰もが一度挑戦してみたいと夢見る憧れのポイント。

釜口

2008年の冬だと思うけど、所属していたブランドのカタログ撮影でハワイにいて、いい波が来そうだからビーチに向かったの。海は貸し切り状態で、撮影用のヘリが2機、今と違ってドローンないからね。

あとボートとジェットスキー2台、プロカメラマン2人、ライフガード。そして乗り手にハワイのレジェンド、ロビー・ナッシュとカイ・レニー*がいるという、これ以上ない完璧な状態。

――

海はどんなんでした。

釜口

ひとことで言えば「やっべー、これ」(笑)。あれだけ海全体が動いているエリアは見たことない。デカい波が崩れると湾全体がグワーンと潰れる感じ。

ジェットスキーの後ろのレスキューボードに道具を積んで、俺はボートで沖に出て、道具を組み立ててエントリーするんだけれど、WSFもサーフィンと一緒で、波と同じかそれ以上のスピードがないと乗れない。

ビッグウェーブに乗るにはサーフィンだとジェットスキーで牽引するじゃない?「ジョーズ」ってサイズが超デカいのに加えて、波のスピードがとんでもなく速くて、風に乗ってWSFをフルスピード、時速60キロ以上で走らせていても置いていかれそうになるんだ。「ああ、このスピードじゃ足りない」って。

――

ワクワクしますね。

釜口

で、波に乗ったら乗ったで、いいポジションにいないと降りていけない。でも、ぐずぐずしていると前がいきなり崩れて巻かれてしまう。

あと、波の表面って滑らかに見えるけれど、実際はモーグル競技の斜面みたいに50〜60cmサイズのコブがいくつもあるの。うっかりコブところでターン入れたら吹っ飛んじゃうから、避けて、飛び越えて、とにかく出口を目指して走る。

――

落ちていく感じですか?

釜口

地獄へ引き込まれていくというか……、俺のレベルだと必死に逃げている感覚だよね。初めてだったから、巻かれないようにまず1本乗って、それから、1本ごとに、ちょっとずつ奥に入っていった。

コンスタントに大きな波が入ってくる日じゃなかったから。超デカい波はロビーさんたちに回して、その乗り方を「あそこはああいう風に行くんだな」と観察して。心臓バクバクしながらも、冷静さを保ってGOする感じ。

――

タカさんでも心臓バクバクするんだ。

釜口

とにかく、どんどん先に逃げないとやられると思った。冷静に、巻かれないことを心がけて、攻めるラインには行かなかった。レジェンドたちは巻かれそうになるギリギリのラインを走る。それが一番の醍醐味だから。

でも、無茶をしているんじゃなくて、風や波がこの向きからこう来たらこのラインだって「ジョーズ」を知り尽くしているんだよね。ここで何十回も何百回もやって、嫌というほど巻かれた経験を積んでいる。かっこいいけれど、やばい奴らだよ。

――

1本、波を乗り終えた後はどうするんですか?

釜口

ホッとする間もなく、次の波が来ているから、素早く沖へ逃げなきゃいけないんだけれど、WSFって風がないと動けないじゃない?ところが乗り終えたところって風がないんだよ。沖に出たくても出られないから「やべぇ、早く風、きてくれーっ」って祈ったね。

そういうことも考慮して、安全な場所で波を降りないと、最悪の巻かれ方をしてしまう。俺も3回くらい巻かれたけれど、「ジョーズ」の中では比較的安全なところだったから思いのほか優しくて、道具も壊れなかった。運が悪いと亡くなる人もいるから。

――

よく、ビビりませんでしたね。

釜口

だって、2機のヘリが上空を飛んで、そこからカメラマンが望遠レンズで俺を狙っているんだぜ。こんな最高の舞台をいただいといて、「なぜやらない」って言われたくないじゃん(笑)。

ロビーさんやカイがどう乗るのかを見せてくれたから、すごく勉強になった。チャレンジしたのは自信があったからだけれど、レジェンドたちと一緒だから大丈夫という安心感があったからかもしれない。恐怖はシチュエーションによって違うからね。

その日はアメリカ人のマネージャーがデカいのに巻かれて、ジェットスキーに救助されて撮影終了になったんだけど、ボロボロになっている姿を見て「あー、俺じゃなくてよかった」ってホッとした(笑)。

――

すごいなあ。その頃、カイ・レニーはまだ子どもだったんじゃないですか?

釜口

15、16歳くらいだと思う。でも、そのころからハワイのレジャンドたちがみんな彼を応援していて、ビンビンに頭角を現していた。

カイがすごいのはサーフィンも、WSFもカイトもSUPも、すべてのマリンスポーツをトップレベルでこなすんだよね。今やスーパースターだけど、それを鼻にかけない人格者。あいつが酒飲んでいるところ、一回も見たことない。コツコツとトレーニングもするし、ビーチクリーンにも積極的だし。今、最高のウォーターマンなんじゃない?

――

タカさんも幅広いですよね。

釜口

俺はプロを辞めてからWSFからは離れちゃったけどね。店を持って、SUPを始めて……、今、お客さんの9割はSUPだから。あと、店には海がどんな状況でも江の島の海を楽しめるように、フォイルサーフィンとか。カイトサーフィンとか、いろんな遊び道具を用意している。

WSFを突き詰めたいと思って、マウイ島や日本だと御前崎にいたときも、風が吹かないときはサーフィン、波がないときはスキムボードしたり、カヌーしたり、泳いだり。昔から臨機応変に遊んでいたからさ。

――

ひとつにこだわらない。

釜口

ひとつにこだわるって、逆にいうと視野を狭めることにもなるじゃない?俺にとってはどれも楽しさは一緒なんだよね。ひとつひとつにそれぞれのよさがある。どうせならそれを全部味わっちゃうほうが、きっと人生楽しいって思うんだ。

――

やっぱり、タカさんは野獣のように貪欲だ(笑)。

*カイ・レニー=1992年、米国ハワイ州出身。サーフィン、WSF、SUPなど幅広くこなす若きウォーターマン。パドルボードワールドチャンピオン、カイトサーフィン、ウィンドサーフィンチャンピオンなど…… 数々のコンテストでタイトルを獲得。

TO BE CONTINUED
2022/01/07