PROLOGUE

第1回目のゲストはタカさん=釜口貴晴さんです。
この企画を思いついた時に真っ先に思い浮かんだのがこの人。

ハワイ、マウイ島にあるモンスター級の波がくるサーフポイント「ジョーズ」に
WSFでチャレンジしたこともある元WSF日本チャンピオン。
そして、カイトボーディング、SUP、フォイルサーフィンなど、
新しいマリンスポーツをいち早く取り入れてきた、海の遊び方の
伝道師でもあります。

どんな時でも太陽のような笑顔。
パワフルでタフなボディ。
海に出ればメチャクチャかっこいいライデイングでみんなを魅了する。
僕は会うたびに野生動物の様に自由な人だなって、憧れます。

そして、どんな時も笑顔。
大島から江ノ島までSUPで一緒に横断すると、
いちばんキツい時でもやっぱり笑顔。
そんなTAKAさんの笑顔の秘密に触れたいと思います。


● ゲスト = 釜口貴晴 さん
● 聞き手 = 鈴木一也

PART01.かっこよくて、面白くて、ちょっと変。いつも笑顔の、貪欲な野獣 。

――

タカさんをざっくり紹介すると、WSF界に衝撃を与えた「TAKASLIDE」というトリックを発明した人で、ハワイのビッグウェーブの聖地「ジョーズ」*にウインドサーフィン(以下、WSF)のチャレンジを成功させ、また、カイトボード、SUP、フォイルサーフィン、ウィングフォイルなど新しいマリンスポーツをいち早く取り入れた海の遊び方の伝道師で、数々のコンテストで優勝している海の先輩です。

釜口

俺、面白そうだと思ったら何にでも手を出すから(笑)。

――

フォイルサーフィンが出始めた頃、タカさんと一緒にどうやったら浮くのか研究しましたよね。そのとき、すごく一所懸命に練習する姿に驚いたんです。タカさんって天才肌だとばかり思っていたから。

釜口

きっと、貪欲なんだよ。

――

何時間も、何度も何度もトライしていたでしょう。たぶん、それを僕がすると「努力」と言われる。でも、タカさんがやると「貪欲」に映る。いい意味で「野生動物」なんです。

前にお店で会ったとき、ちょうどタカさん千葉から帰ってきたところで、「フォイルで頭割っちゃって、血が止まんないんだよ〜」って青い顔していたじゃないですか。

釜口

今はヘルメットかぶるけどね。

――

で、「バイ菌入るとやべぇ、バイ菌入るとやべぇ」って騒ぎながら、病院に行ったのがなんかおかしくって(スミマセン!)。

釜口

いや、一也ちゃん、甘く見ちゃダメ、バイ菌はやばいんだって。

――

なら、どうしてすぐに千葉で病院に行かなかったんだろうって(笑)。

釜口

そのときは、江ノ島から九十九里まで通院するのは大変だと思っちゃったんだよ。

――

例えばそんなアンバランスなところがタカさんの魅力。すごい実績の持ち主なのに、なんか発想が動物?ケモノ?的なんです。

釜口

あー、でも、耳の鼓膜をやっちゃったときは、すぐに近くの病院行ったよ。

――

ありましたね、そんなこと。

釜口

4、5年前だけど。あれはやばかった。SUPで波乗りしていて、頭くらいのサイズの波のてっぺんからパーンって落ちて。頭がぐらんぐらんして、訳がわかんなくなった。ボードにしがみついて浮いていたけど、波が来るたびに巻かれて、どっちが上かわからないし、吐き気はするし……これだけ海で遊んできて、あんなに怖かったのは初めて。

――

危ない目には、たくさん遭ってきたんじゃないですか?

釜口

高校生の頃、先輩たちとWSFで江ノ島の沖に出たとき、俺、一番下手くそだったから、みんなと離れちゃって。そうしたら、あっという間に濃い霧に包まれて、一面まっ白で何も見えなくなっちゃった。一人ぼっちだし、どっちが岸かもわからない。「落ち着け俺」って言い聞かせて。出たときは確かオフショア(陸から吹く風)だったから、とにかく風上に向かってみたけど。あれは怖かったな。なんというか静かに怖かった。

――

僕も茅ヶ崎の海でホワイトアウトの経験ありますけれど、あれは怖いですよね。あれからはGPS付きの腕時計なしでは沖に行かなくなりました。

釜口

あと雷。九十九里でカイトサーフィンやっていたとき、ゴロゴロ鳴ってきたので、海から上がったの。で、車の陰でだべっていたらバチーンって爆音と共に、ビリビリビリ〜ってきた。目の前の海に雷が落ちて、みんなの髪の毛が逆立っているの、ドリフのコントみたいに(笑)。

でも、笑いごとじゃなくて、ビーチにいた10人近くが重軽傷を負って病院に運ばれて、重体だった人が亡くなった。それ以来、「とにかく雷はやばい」って口うるさく言うようにしてる。

みんな「怖がりすぎですよ」って笑うんだけど、「いやいや、そうじゃないから、お願いだから言うこと聞いて。上がろうよ」って。

――

体験しないと自然の恐さはわかりませんからね。

釜口

でも、一也ちゃん、大島泳断のときサメ除けのシャークシールドで電流を流して泳ぐじゃない? あれ、結構ビリビリして痛いじゃん。君は変態だよ(笑)。

――

ありがとうございます(笑)。SUPで伊豆大島〜湘南海岸は何本も一緒にやってますね。

釜口

あれはいいよね。心が洗われる。海を独占している感じが好きだな。メンバーの一体感もあるし。

――

大島から湘南海岸まで伴走船つきで、だいたい12、3人くらいでSUPを漕いで渡るんですけど、タカさんが気を遣って、一番苦しいしんがりを務めてくれて。

釜口

うまくコントロールしているよね、一也ちゃん。メンバーが言っていた。「一也さんがいなかったら絶対、大島は怖くてやらない」って。

「えーっ、俺だけじゃダメ?」って聞いたら、「一也さんはきちんとリスクマネジメントしているけど、タカさんは思いつきでいっちゃうから」(笑)。確かになあ、よく見ている。

――

初めて一緒に大島からSUPを漕いで渡ったとき、僕らは朝からおにぎりいっぱい食べて炭水化物を摂っているのに、タカさんはコーヒーだけ。長丁場だからみんな30分おきに食べ物とドリンクの休憩をとるんだけど、「俺はポケットに飴とチョコレートあるから大丈夫」って何も摂らない。

運動の基本の栄養や水分の補給を完全無視。「すげえタフだな。やっぱりこの人は野獣なんだ」って感心していたら、何時間経ったか忘れたけれど、タカさん軽い感じで「全身攣ったから俺、上がるわ」って、まさかのリタイア(笑)。

釜口

それから俺、学んだよね。今はちゃんとポカリ飲む。ポカリはすごい。あれは長時間カラダを動かすとき飲むのにもってこいだ。

――

40過ぎまで、ポカリスエットを飲んだことなかったってことにビックリですよ(笑)。で、タカさんって、そんな時もいつも笑ってる。それってとても大事なことだと思うんです。

釜口

俺、楽しいことしかしないもん。苦しくったって、それを選んだのは自分なんだから、笑うしかないんだよ。

あとね、一也ちゃん、俺、生きるのに大切なのは「思い込み」だと思うんだ。「俺はこうなる」という強い思い込み。成功した人って、よくそう言うじゃない?

――

はい。よく聞きます。

釜口

それって正しいと思うんだよ。俺「この人キレイだな。いい女だな。一度会ってみたい。
絶対に会える」って思い込んでいたから、伊東美咲ちゃんに会えたもん。

――

・・・そこ?!(笑)

釜口

それもこんなに近くでだよ。「俺、大ファンです」って告白したけど、すんげぇ怪しまれた。で、驚いたのがね、鼻毛がないんだよ、美咲ちゃん。やべぇよ。

――

タカさん、脱線してますって(笑)。

えーと実は大事なので説明すると、癌で早逝したプロウィンドサーファー、飯島夏樹さんの生涯を描いた映画『Life 天国で君に逢えたら』(2007年)で主演の大沢たかおさんのスタントマンをタカさんが演じて、伊東さんと
共演されたんですよね。僕も大好きな映画で何度も観てます。

釜口

俺さ、飯島さんと同じチームだったことがあるんだ。飯島さんって真面目で格好もちゃんとしているし、きちんとトレーニングするし、夜遊びしないし、一流のアスリートだった。そう、俺とはまったく違うタイプ。

飯島さんの生き様を遠くから見ていたけれど、自分なら癌に侵されてあれだけ強い心でいられるかって……俺にはとてもじゃないけど、自信ない。奥さんとまだ小さな子どもを残して……。
飯島さん、ウインドサーファーとしてもはもちろんだれど、人としてすごかったんだよ。

*ジョーズ=マウイ島北部にある、世界トップクラスのサーファーも尻込みするほどのモンスタークラスの波が発生するサーフポイント

TO BE CONTINUED
2021/11/26